「これはスーパートレーナーではない。純度の高いジョグシューズだ」——これが、発売日に黒のHYPERBOOST RUNを手に入れ、32℃の湘南で10km走らせた後の結論だ。
週110km、サブ3を目指す33歳ランナーとして、この一足に求めたものは速さではない。HYPERBOOST EDGEを買うつもりで店に入り、隣に並んでいたRUNを試着して、そのまま持ち帰った。普段はカタログスペックを見て買う。今回は足を入れた瞬間に判断が変わった。厚みを7mm削ったことで生まれたバランスと、試着でも分かるほどの軽さ。デイリートレーナーとして、これ以上の理由は要らなかった。
- 走り味は「トランポリン」ではない——硬さの中でしなり、反発が返る。Novablast系やSuperblast 3の「沈み込んで弾む」感覚とは別物で、ADIZERO EVO SLに近い
- 実測235g(26.0cm)——公称247g(27.0cm)より軽い。ただしEVO SLの約210g、EDGEの約230gより重く、カタログ上の序列とは逆転した
- 安定感は手持ちで随一——広い接地面と柔らかすぎないフォームが、38mmの厚底を不安なく履かせる
- 通気性は明確な弱点——32℃・10kmで靴下が完全に濡れた。ラボ値54BR(平均72BR)という海外レビューの指摘には同意する
- 比較すべきはSuperblast 3ではない——迷うのはEVO SL(スタック差0.5mm・同価格)とEDGE(+4,400円)の2足。この棲み分けが購入判断のすべてだ

📊 Specification:HYPERBOOST RUNの基本スペック
| 項目 | HYPERBOOST RUN | HYPERBOOST EDGE |
|---|---|---|
| 発売 | 2026年8月1日 | 2026年3月 |
| 定価(税込) | ¥19,800 | ¥24,200 |
| 公称重量 | 247g(27.0cm片足) | 255g(27.0cm片足) |
| 実測重量(手持ち) | 235g(26.0cm) | 230g |
| ヒールスタック | 38mm | 45mm |
| 前足部スタック | 32mm | 39mm |
| ドロップ | 6mm | 6mm |
| ミッドソール | HYPERBOOST PRO FOAM | HYPERBOOST PRO FOAM |
| プレート | なし | なし |
| アウトソール | LIGHTTRAXION+前足部Continentalラバー | LIGHTTRAXION |
| アッパー | PRIMEWEAVE+部分メッシュ | PRIMEWEAVE |
| 販路 | スポーツデポ・アルペン/adidas公式限定 | 一般流通 |
HYPER BOOST RUN

最大の特徴は、EDGEからヒールで7mm、前足部で7mm削ったスタックにある。45mm/39mmという規格外の厚みを、38mm/32mmという常識的な厚底に落とし込んだ。マラソンのソール厚40mm規制に収まる数値でもある。プレートは非搭載。前足部にはEDGEになかったコンチネンタルラバーが配置されている。
公称重量は27.0cmで247g。手元の26.0cmを実測すると235gだった。ここまでは順当だ。だが同時に測ったEDGEは230g。公称ではRUNが8g軽いはずが、実測では逆転している。厚みを削った分を、コンチネンタルラバーとやや厚いアッパーで取り戻してしまった格好だ。カタログと実物が一致しないのは、いつものことである。

👟 First Impression:EDGEを買いに行って、RUNを持ち帰った日
目的は3月発売のシリーズ第一弾。45mmの厚底に興味があった。
既にAdidas公式ショップ主催のトレミでの試走会に参加済み。
8月1日。同じ棚に、まだ誰も履いていない新作があった。
EDGEを履いた直後だと、38mmが薄底に感じる。静止したままでも反発が分かった。
走っていて気持ちがよいか、そして色。私のシューズ選びの基準を両方満たした。
8月1日、発売日。当初の目的はHYPERBOOST EDGEだった。3月に登場したシリーズ第一弾で、45mm/39mmという規格外のスタックが何を生むのかを確かめたかった。
ところが、同じ日にRUNが並んでいた。試着した瞬間の印象は二つ。「軽い」、そして「薄い」。EDGEを履いた後だと38mmが薄底に感じられるほどで、全体の厚みが減った分、バランスが明確に良くなっている。爪先立ちをすると、静止したままでも反発が返ってくるのが分かった。
普段のジョグに使うには十分すぎる。そして黒一色。私がシューズを選ぶ基準は「走っていて気持ちがよいか」と「色(黒が好きだ)」の2つしかない。その両方を、試着の数十秒で満たしてしまった。
カタログスペックを見て買うのが常だが、今回は試着が決め手になった。数値を読む前に、足が判断した珍しいケースだ。
🏃 実走感:キロ6分からキロ4分まで、10kmで確かめた「ポムポム」の正体
| ペース帯 | 用途 | 体感 | 評価 |
|---|---|---|---|
| 6:00/km | リカバリー | 硬さが気にならず、脚が流れない | ◎ |
| 5:00/km | Eペース | 最も自然。設計の中心はここにある | ◎ |
| 4:30/km | ミドル | 反発が立ち上がる。無理なく上げられる | ○ |
| 4:00/km | テンポ域 | 走れる。ただしこの靴でやる理由がない | △ |
私のLT Paceは3:57/km。今回の10kmで試したのは、キロ6分からキロ4分までの帯だ。結論から言えば、どのペースでも破綻しない。万能感はある。ただし「万能だから何にでも使う」という判断にはならなかった。その理由は比較の章で書く。
「ポムポム」の正体——弾みではなく、硬さの中のしなり
HYPERBOOST PRO FOAMの感触を、シリーズの試走記事や海外レビューは「跳ねる」ではなく「ポムポム」と表現している。この表現自体には同意する。ただし自分の体感を正確に言語化するなら、「弾む」ではなく「反発がある」だ。軽さの中に、はっきりとした硬さがある。その硬さがしなり、返ってくる。
Superblast 3やNovablast系の「沈み込んでから弾き返される」トランポリン感とは、力の方向がまるで違う。ASICSは沈み込みを使い、adidasは硬さのしなりを使う。これはモデルの差ではなく、ブランドのコンセプトの差だ。RUNの走り心地は、Blast系よりもADIZERO EVO SLに近い。
安定性:広い接地面が消した「厚底の不安」
走り出して数百メートルで分かった。接地面が広く、フォームが柔らかすぎない。この2つが揃うと、38mmという厚みは不安要素にならない。手持ちのシューズの中で、安定感は随一だ。
Superblast 3と比べれば、安定感は明確にRUNが上になる。ただしSB3が不安定だという意味ではない。SB3は沈み込みと反発に振った設計であり、揺れは仕様の一部だ。安定を取るならRUN、弾みを取るならSB3。それだけの話である。
グリップ:コンチネンタルラバーは「悪くない」が、特別でもない
アウトソールにはEDGEになかったコンチネンタルラバーが前足部に入る。海外レビューはこれを大きな進化として扱っている。だが乾いたアスファルト10kmでは、「しっかり捉えている」以上の印象はなかった。
正直に書けば、グリップが破綻するシューズを履いた経験がないため、比較の基準を持っていない。悪くはない。ただ、これを購入理由に挙げるほどの差は感じなかった。濡れた路面での検証は今後の課題とする。
現時点でのローテーションにおける役割分担は、次のとおりだ。
RUNが収まるのは、これまでAdistar 4とNOVABLAST 6が担っていた「イージージョグから普通のジョグ」の帯だ。ここに、軽くて安定した選択肢がもう一枚増えた。
🌡️ Breathability:32℃・10kmで、靴下は完全に濡れた
| 検証項目 | ラボ値(海外レビュー) | 私の実走(32℃・10km) |
|---|---|---|
| 通気性 | 54 BR(平均72 BR) | 靴下が完全に濡れた——指摘に同意 |
| 乾燥性 | 38%(平均53%) | 未検証 |
| アウトソール摩耗 | 0.8mm(平均1.1mm) | 10kmでは判断不能 |
海外のラボテストは、このシューズの最大の弱点を通気性だと結論づけている。54 BRという数値は平均72 BRを大きく下回り、EDGEよりも悪い。防水膜を持つ冬用シューズより低いという指摘まである。
実走で確かめた。気温32℃、10km。走り終えたとき、靴下は完全に濡れていた。ただし、この結果をそのまま通気性の欠陥と結論づけるのは早い。私は汗かきだ。そしてVomero 18でも同じ経験をしている。厚みのあるシューズで蒸れるのは構造の問題である可能性もあり、通気性だけを犯人にはできない。
それでも、他のシューズと比べて「濡れ感が強い」という感覚は確かにあった。結論としては、通気性の指摘に同意する。真夏のロング走で選ぶ一足ではない。
耐久性については、走行10kmの現時点では何も語れない。ラボ値ではアウトソール摩耗0.8mm(平均1.1mm)と優秀な結果が出ている。数百km時点での実測は、走り込んだ後に追記する。
⚖️ Comparison:他モデルとの徹底比較
| HYPERBOOST RUN | ADIZERO EVO SL | HYPERBOOST EDGE | NOVABLAST 6 | |
|---|---|---|---|---|
| 定価(税込) | ¥19,800 | ¥19,800 | ¥24,200 | ¥17,600 |
| 公称重量(27.0cm) | 247g | 224g | 255g | 249g |
| 実測重量(手持ち) | 235g | 約210g | 約230g | 約252g |
| スタック(ヒール/前足部) | 38mm/32mm | 38.5mm/32mm | 45mm/39mm | 41.5mm/33.5mm |
| ドロップ | 6mm | 6.5mm | 6mm | 8mm |
| ミッドソール | HYPERBOOST PRO FOAM | LIGHTSTRIKE PRO | HYPERBOOST PRO FOAM | FF BLAST MAX+FF TURBO SQUARED |
| プレート | なし | なし(中足部ドッグボーン) | なし | なし |
| 走り味 | 硬さの中でしなる反発 | 硬めで即応の反発 | 硬いが反発量は最大 | 硬めで実践的 |
| 安定感 | 非常に高い | 中〜高 | 高い | 高い |
| 私のローテでの用途 | Eペース・ジョグ | LT走・MP走 | ロング走 | Eペース・ジョグ |
| HYPERBOOST RUNとの差 | — | 約25g軽く反発が速い。スピード練習向き | 7mm厚く反発量が上。万能性で上回る | 同じジョグ帯。ドロップ8mmで接地感が異なり、価格は2,200円安い |
実測重量はサイズが25.5〜26.0cmと揃っていないため、参考値として見てほしい。それでも、この表から読み取れることは多い。ここからは、実際に購入で迷った2足について書く。
※ IDを指定してください。ADIZERO EVO SLとの比較:スタック0.5mm差、同価格という「同点勝負」
表を眺めて最初に気づくのは、EVO SLとRUNのスタックがほぼ同一だという事実だ。RUNが38mm/32mm、EVO SLが38.5mm/32mm。その差わずか0.5mm。ドロップも6mmと6.5mm。価格に至ってはどちらも19,800円である。数値だけを並べれば、この2足は同じ靴と言っていい。
違いは重量と反発の速さに出る。EVO SLは約210gと25g軽く、反発の立ち上がりが速い。RUNは反発量こそ同等か、やや譲る程度。代わりに安定感で上回る。したがってスピード練習にはEVO SL、普通のジョグにはRUN——これが現実的な棲み分けになる。EVO SLをどう使い倒してきたかはこちらのレビューにまとめている。
国内外の一部レビューは「EVO SLとRUNは中途半端に被る」と指摘している。この指摘は正しい。ただし私の見立てでは、より深刻に被っているのはこの2足ではない。
HYPERBOOST EDGEとの比較:本当に迷うのは、この2足のあいだだ
EVO SLとEDGEの棲み分けは明確だ。EVO SLはスピード練習、EDGEはロング走。同じadidasでも用途が重ならない。この2足を両方持つ意味は分かりやすい。
一方、RUNとEDGEは同じフォーム、同じドロップ、同じくプレートなし。差はスタック7mmと価格4,400円だけだ。そしてどのペースでも使える万能感は、EDGEのほうが上である。両方を手元に置いている状態で、RUNでテンポ走をやる理由が見つからない。RUNの居場所は「EDGEより軽快に、日常のジョグを回す」という一点に限定される。
同じブランドから、同じ用途に見える靴が2足出ている。これがHYPERBOOSTシリーズの現状だ。1足だけ選ぶなら、迷わずEDGEを勧める。
なぜ「Superblast 3と比べるな」なのか
海外の総合レビューは「もっと深いクッションが欲しいならEDGEかSuperblast 3を選べ」と書いている。この指摘には反対だ。
RUNは厚底が欲しい人に向けた靴ではない。厚みを求めるなら、同じシリーズにEDGEがある。RUNはデイリートレーナーであり、比較対象はEVO SLやNOVABLAST 6だ。Superblast 3と並べるべきなのはEDGEであって、RUNではない。カテゴリを取り違えた比較は、読者の購入判断を歪めるだけだ。
ヒールカップの設計:匠戦11で腫れた踵は、10kmで痛まなかった
購入前の唯一の不安がこれだった。過去に左足踵を腫らしたことがあり、原因はタクミセン11のヒールカップが当たっていたことだった。EDGEもRUNも、形状の近いヒールカップを持つ。同じことが起きるのではないか。足型とヒールカップの相性については足型データから分析した記事に書いたとおりで、同じように見える形状でも当たり方はまるで違う。
結果は10km走って痛みゼロ。腫れもない。踵の収まりは良く、当たりを感じる箇所がなかった。ヒールカウンター自体は柔らかめの設計で、過度に固定してこないのが効いているのだろう。

💪 Pros & Cons:メリット・デメリットの徹底分析
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 手持ち随一の安定感 Eペース〜ジョグでの快適性 実測235gという軽さ 硬さの中でしなる反発 踵に当たらないヒールカップ 真っ黒のルックス | 通気性。32℃・10kmで靴下が完全に濡れた。加えてEVO SL・EDGEとの棲み分けが曖昧で、3足すべてを持つ意味は薄い |
メリット:ジョグの帯に必要なものが揃っている
デメリット・気になる点:通気性と、曖昧な棲み分け
気に入って買った靴なので、走り味への不満はない。デメリットは2つに絞られる。
1つは通気性だ。32℃・10kmで靴下が完全に濡れた。汗かきという条件を差し引いても、真夏のロング走で選ぶ一足ではない。
もう1つは棲み分けの曖昧さである。EVO SLとはスタック0.5mm差・同価格、EDGEとは同じフォーム・同じドロップ。3足を並べたとき、RUNだけが担う役割は「日常のジョグ」に限定される。それを許容できるかどうかが、購入判断の分かれ目だ。
🎯 Recommendation:誰におすすめ?誰にはおすすめしない?
キロ5分前後のジョグが日常になっている人には、素直に勧められる。安定感があり、軽く、反発もある。デイリートレーナーに求められる要素は一通り揃っている。デザインで選んでも後悔しないタイプの靴だ。
こんな人にはおすすめしない
レースを狙う一足を探しているなら、この靴ではない。フルもハーフも、レースでRUNを履く可能性はゼロだ。反発はあるが、レースで選ぶ理由がない。
すでにEVO SLを持ち、ジョグ用のシューズが足りているなら、買い足す必然性は薄い。真夏に大量の汗をかくランナーも、通気性の点で別の選択肢を検討したほうがいい。
📏 Fitting:サイズ選びとフィッティングの注意点
26.0cmを選んだ。普段のサイズどおりで問題ない。海外レビューはトゥボックスの縦幅が23.7mm(平均27.0mm)と低いことを弱点に挙げているが、足指の圧迫はまったく感じなかった。ラボの数値が即座に不快感につながるわけではない、ということだ。
ただし、フィッティングは走ってみないと分からない。今回の購入も、EDGE目当てで入った店で足を入れた瞬間に判断が変わった一例だ。数値を読む前に、履いて数歩動いてみてほしい。
❓ FAQ:よくある質問
- HYPERBOOST RUNはレースで使えますか?
-
ソール厚38mmなのでマラソンの40mm規制には収まるが、私はフルもハーフもレースで履く予定はない。反発はあるものの、レースで選ぶ理由がない。デイリートレーナーとして評価すべき一足だ。
- ADIZERO EVO SLとどちらを買うべきですか?
-
用途で分かれる。スタックは38mm/32mmと38.5mm/32mmでほぼ同一、価格も同じ19,800円だが、EVO SLは約25g軽く反発の立ち上がりが速い。スピード練習を含めるならEVO SL、日常のジョグ中心ならHYPERBOOST RUNを選ぶことになる。
- HYPERBOOST EDGEとどちらがいいですか?
-
1足だけならEDGEを勧める。どのペースでも使える万能性はEDGEが上で、手元の実測ではEDGEのほうが5g軽かった。RUNは日常のジョグを軽快に回す役割に特化しており、両方持つとRUNでテンポ走をやる理由がなくなる。
- Superblast 3の代わりになりますか?
-
ならない。そもそも比較する相手が違う。Superblast 3は沈み込んでから弾むトランポリン型のスーパートレーナー、HYPERBOOST RUNは硬さの中でしなるデイリートレーナーだ。Superblast 3と並べるべきなのは、同じシリーズのHYPERBOOST EDGEである。
- 夏に履いても大丈夫ですか?
-
蒸れは覚悟したほうがいい。気温32℃・10kmの実走で靴下が完全に濡れた。ラボ値でも通気性54 BR(平均72 BR)と低い水準にある。涼しい季節のデイリー用と割り切るのが現実的だ。
📝 Conclusion:万能ではない。だがジョグの帯では強い
HYPERBOOST RUNは万能デイリーではない。デイリートレーナーだ。この2つは似ているようで違う。万能を求めるならEDGEがあり、速さを求めるならEVO SLがある。RUNが担うのは、キロ5分前後で淡々と積み上げる帯だ。
週110kmのうち、大半はEペースとリカバリーで構成されている。この帯を軽く、安定して、気持ちよく回せる靴の価値は小さくない。10kmを走った時点での結論は「ここに置く」である。走行量の設計そのものについては週110kmの記事で書いた。
通気性という明確な弱点はある。EVO SL・EDGEとの棲み分けが曖昧なのも事実だ。それでも、試着した瞬間の「いいな」という判断は、10km走った後も変わっていない。数値を読む前に足が出した答えが、今回は正しかった。
距離を重ねたら、耐久性と濡れ路面でのグリップを追記する。今のところ、この黒い一足はローテーションのジョグ枠に静かに収まっている。


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